MAJORA CANAMUS.

ヘンデル「メサイア」への想いを、台本と楽譜をもとに語ります

No.3 Air "Ev'ry Valley shall be exalted"

谷はすべて身を起こし(イザヤ40:4)

 第3曲は聖句を具象的に表現した楽曲である。序奏は、「諸々の谷」(楽譜の赤色部)と「山を低くする」(同青色部)に当てがわれた音型を組み合わせている。テンポは第2曲よりも速く演奏され、力強い意思を感じさせる序奏である。

 主の道をどのように用意するのか。「諸々の谷は高く、諸々の山と丘は低く! 凹凸のある場所は真直ぐに、険しい土地は平らかに」*と用意されると預言される。

 曲中6回表れる谷はBassiが、谷を高くする様子はtenorのcoloraturaと、tenorを鼓舞するかのように2音の繰り返しで弦楽器が奏でる。

 

 山と丘はtenorが「low」と低く表現する。屈曲したところはtenorとBassiが音型で表現し、2部音符が真直ぐとなることを示す。そして平らとなる土地は2分音符や全音符が表現する。

 この極めて具象的な音型を聴くにつれ、主の道が整備されることのみならず、聴衆の心には別の意味が湧き出てくるのではないだろうか。辛く苦しむ人々は身を起こし、きちんとした状態でないものは修正され、騒がしき世界は率直で質素な状態に正される。人々に反省と更生を求め、その先にメシアの到来があるのだと。

 後奏で序奏と同じ音型が表れ、聖句の意味を聴衆に再確認させているのだ。

 

*ルース・スミス著, 赤井勝哉訳,「チャールズ・ジェネンズ メサイア台本作家の知られざる功績」,2005年,聖公会出版