MAJORA CANAMUS.

ヘンデル「メサイア」への想いを、台本と楽譜をもとに語ります

2023-01-01から1年間の記事一覧

No.3 Air "Ev'ry Valley shall be exalted"

谷はすべて身を起こし(イザヤ40:4) 第3曲は聖句を具象的に表現した楽曲である。序奏は、「諸々の谷」(楽譜の赤色部)と「山を低くする」(同青色部)に当てがわれた音型を組み合わせている。テンポは第2曲よりも速く演奏され、力強い意思を感じさせる序奏…

イザヤ書のこと

メサイアの第1部・第1場の歌詞は預言書のイザヤ書から選ばれている。アブラハムの契約、シナイの契約でのイスラエルの民の特権と責務、そしてその民の背信に対する裁きである捕囚、そして捕囚の民に対する慰めのメッセージと帰還。 これらは、イザヤ書の預言…

No.2 Accompagnato

慰めよ、わたしの民を慰めよと(イザヤ40:1-3) 第1部第1場は、預言者イザヤの書40章1~5節が歌詞として選択されている。この第2曲目はテノールが当てられている。ソプラノで歌われたこともあるようだが、ソプラノは第4場の天使の場面まで温存され、慰め、確信…

再開

前回の更新からかなりの時間が経過してしまった。いろいろな事柄が起こり、なかなか落ち着いて考える余裕がなかった。 2023年の暑い夏がやっと終わろうとしている。さあ、再開しよう!

No.1 序曲(5)

聖書、特に旧約聖書は対話的なテクストであるという。対話的に構築され、対話的に関わらなければ読み解けない、対話の思想を叡智として持った対話的なテクストであるという1)。 メサイアの序曲の55小節目からはそのような対話性を想起させるような箇所である…

No.1 序曲 (4)

Violino 1 & Oboe 1 → Violino 2 & Oboe 2 → Basso continuo に引き継がれた主題に続いて、対話を想起させるような音型が表れる。最初は、Violino 2 & Oboe 2(主題17小節のパッセージ)とBasso continuo(2分音符の音型)の組み合わせ(下図26-28小節)、次…

No.1 序曲 (3)

序曲は付点が特徴的な導入部、中間部のフーガ、そして終止部からなる。導入部は、前述のように上昇傾向の音形であるが、心からの喜びというより、心の嘆き、叫びを底から絞り出す、あるいは厳しく叱責しているかのようである。 これに対して中間部のフーガの…

No.1 序曲 (2)

序曲の導入部の最初は以下のような主題から始まる。 しかし、原譜の付点リズムは、複付点と16分音符の組み合わせであることが広く認められており、しかもスコアによっては、下記のように休符を組み合わせた鋭い切りと音形をイメージしている場合もある*1。 …

No1.序曲 (1)

メサイアのロンドン初演(1743年)のワードブック表紙の、テモテへの第一の手紙(第3章16節)とコロサイ人への手紙(第2章3節)に目を通した聴衆は、もしかしたら神を賛美するような長調の序曲を想像したのかも知れない。 しかし、序曲は短調で始まる。しかもホ短…

メサイア第一部

メサイアは三部構成で、ワードブックには各部がさらにいくつかの「場」で構成されていることが示されている。第一部は救世主の預言、救世主の降誕と宣教を主題としている。但し、下表のようにその台本の選択は旧約聖書(特にイザヤ書)からの聖句が多く、新…

牧歌第4歌

メサイアが1743年にロンドンにて最初に演奏された際に、聴衆の手元にあった歌詞冊子(ワードブック)の表紙に書かれていたウェルギリウス『牧歌』第4歌は、紀元前40年頃に創作されたと思われるもので、キリストの出現を予言した歌とみなされた、牧歌としては特…

"MAJORA CANAMUS"

「いざ我ら大いなる事を歌わん!」 Georg Friedrich Handel(Georg Friedrich Händel、以下ヘンデルと略記)が作曲したオラトリオ「MESSIAH」(以下メサイアと記載)がダブリンでの初演後、1743年にロンドンにて最初に演奏された際の歌詞冊子(ワードブック)の…